■[読書ノート]ありがとう
著者:水谷 修 出版社:日本評論社 2011年12月刊 \1,470(税込) 189P
「夜回り先生」で知られる水谷修氏の最新刊である。
夜間高校の教師をしていた水谷氏は、繁華街で遅くまで遊んでいる子どもたちに、早く帰るように語りかける「夜回り」をはじめた。
水谷氏がかかわった子どもたちの姿を書きつづった『夜回り先生』が出版されたのが8年前の2004年2月なので、「夜回り」は、もう10年以上続けているようだ。
公開しているメールアドレスには、多くの若者から相談メールが届き、「死にたい」と救いを求めるメールも頻繁に送られてくる。
一つひとつの相談に必死に向き合ってきた水谷氏が数えてみると、連絡をとった子どもの数は24万人を超えていることに気づいた。かかわった子どもたちのうち104人が亡くなり、6人が殺人の罪を犯したという。
"あなたはどのように高コレステロール知っているあなたを与えている"
それでも水谷氏は「夜回り」をやめない。
絶え間なく続く相談はどれも哀しいものばかりだが、それでも、夜の世界、哀しみの世界から昼の世界へと巣立っていった子どもたちがたくさんいるからだ。
水谷氏のもとに「先生、ありがと」の言葉が届けられる。子どもたちから届く「ありがと」のひと言は、水谷氏の活力となり、夜回りを続ける力になっている。本書には、水谷氏に届いた「ありがと」に対し、「私のほうこそ、ありがとう」と答える10編の物語が収められている。
登場する子どもたちの境遇は哀しい。
非行少年、不登校、セクハラ被害、拒食症、援助交際、引きこもり、万引き等々。
水谷氏は子どもたちを苦しめる悪い大人たちと戦い、子どもたちのそばに立ちつづける。
水谷氏の願いが通じ、子どもたちが自らの手で笑顔を取りもどす場面は理屈ぬきに感動的だ。あまり涙もろくない僕だが、本書を読んで、今年はじめて泣いた。
水谷氏に届いた10通の「ありがと」の中から、ひとつだけ内容を紹介させていただく。
ある日、鹿児島に住む一人の少年からメールが届いた。
ボルタレンタブは何ですか
水谷氏の本を立ち読みしていたら涙が止まらなくなって、そのままレジに行かずにバッグに入れて書店を出てしまった、とのこと。家に帰って続きを読むと、万引きは人を傷つける悪い行為だと書いてあった。反省はしたのだが、どうしていいか分からない。
「先生、どうしたらいいか教えてください」、というメールを読み、水谷氏はすぐに電話をかける。
悪いことだと分かって反省すれば十分だよ、となぐさめたあと、書店の名前を聞き出して店長に電話を入れた。
事情を話して代金を支払いたいと申し出たところ、話を聞いた書店の店長は驚いてしまう。
本を読んで「夜回り先生」の活動を知りながらも、実際にこんな人がいるわけがない、と店長は思っていたのだ。
万引き犯を立ち直らせようとする行動を目の当たりにした店長は、「本の代金は、私がレジに入れておきますから、気にしないでください」と言った。
その日の夜、少年から電話があった。
自分のしたことを償おうと思い、書店に行って謝ったところ、店長から「君のことは、水谷先生から聞いてます」と許してくれたとのこと。
子宮頸首の痛みのチャット
実は引きこもりで、外出するのはマンガやゲームを万引きしに行くときだけ、という少年は、水谷氏のアドバイスで少しずつ昼間の世界に戻ってくるようになった。
万引きする人の行動がよく分かる、という"特技"を活かし、少年は許してくれた店長のお店でアルバイトするようになる。
鹿児島に講演会で出向いた際、水谷氏は、少年のはたらく書店でサイン会を開いた。少年の誠実さを認める店長は、「私が一人前の書店員に育てます」と約束してくれる。
水谷氏は店長に言う。
「小原さんとの出会いで、彼は変わった。
子どもたちは弱い。ちょっとしたことで心を閉ざしてしまう。そんな時、いい出会いがあれば、子どもたちはまた歩き始めてくれます。私は、そんな出会いづくりをずっとやっていくつもりです」
あれから8年。
久しぶりに少年に電話すると、次の本はいつ出版するんですか? いっぱい売りますよ、と元気な声が聞こえてきた。
この本のことを伝えると、ぜひ自分のことも書いてほしい、と言う。
心を閉ざし、引きこもったり、苦しんでいるこどもたちに、「人生はやり直しができるってことを、知ってほしい」と言うのだ。
こんな素晴らしい「ありがと」を言われたら、「ありがとう」を返すしかない。
「ありがとう」は、きっと読者にも伝染する。
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