傷の治療でいちばん大切なことは感染をさせないことです。細菌感染して化膿(かのう)すれば、治る傷でも一次治癒ができません。傷の手当てで細菌感染をさせないように努力することが大切です。原因については「感染」(→外傷による感染)を参考にしてください。その他、傷が治るには血流、神経、栄養状態などの全身の状態が関係します。以下の状態や病気の人では傷の治りがよくないといわれています。
1.栄養状態がわるい(たんぱく質、ビタミン、亜鉛などの不足)、2.血流がわるい(動脈硬化による血流低下、うっ血)、3.糖尿病、腎不全、4.高齢、5.抵抗力が低下している(免疫を低下させる病気、抗がん薬を服用している)、6.副腎皮質ステロイド薬の服用、7.まひのある人、知覚のない人、8.ストレスがある人やうつ病、うつ状態にある人、9.血液の病気がある人(血友病など)。
また、傷の部分の治りをわるくする要因は以下のものです。
1.感染、2.異物や死んだ〔壊死(えし)〕組織がある、3.血の流れがわるい、4.乾燥、5.むくみ〔浮腫(ふしゅ)〕やはれ〔腫脹(しゅちょう)〕、6.極端な圧迫や摩擦、7.酸素の低下、8.フィブリンが分解できない、9.消毒薬。
実際の手当てを述べる前に消毒薬と消毒方法について説明します。
消毒薬について
過酸化水素(オキシドール)は傷の中に流し込むと泡が出て、ごみや異物を押し出す作用がありますが、消毒の役割はほとんどありません。ほかに消毒薬がなかったら使う程度のものと考えておきましょう。
ヨードチンキは茶色の薬で、乾いてくるときに消毒の効果がもっともあります。湿っている傷や粘膜の傷、出血している傷には不向きです。そして傷につけると非常に痛いです。
マーキュロクロム(赤チン)はいまでも使用されていますが、消毒薬としての作用効果はあまり強くありません。水銀を含むので今後は使われなくなると思います。
ポビドンヨードは茶色、クロルヘキシジンは無色透明の薬剤で、医療機関でもふつうに使用され市販されています。
病気、口渇、体の痛み、倦怠感、妊娠
色のついている消毒薬は指や足指や血流がわるくなりそうなところの消毒には不向きです。傷に色がつくと、血流があるかどうか(血流があると皮膚が赤色かピンク色、ないと白色、少ないと紫色)がわかりにくくなるからです。簡単に色がとれるポビドンヨードは問題がありませんが、特にヨードチンキや赤チンキは適しません。また市販薬でパウダーのような薬剤がありますが、傷にへばりついてとることができず、色もついていて傷の状態がわからないので、すすめられません。
消毒のしかた
けがをしたばかりやけがをしてから6〜8時間以内(ゴールデンタイム)に傷の中に強力な消毒液を入れたり、殺菌薬を入れて消毒することはすすめられません。ヨードチンキを傷の中に入れて、グリグリこすり消毒する人がいますが、けが人のほうはものすごく痛いです。「痛いのは消毒薬が効いてることだ」という人もいますが、痛みと消毒薬の効果とはまったく関係なく意味がないことです。
傷の中に消毒薬を入れることは、傷の中の組織や細胞を傷つけ、かえって治りをおそくしています。汚い傷や異物がある傷は水道水で洗い流すことです。消毒のしかたは、消毒薬を傷の中に入れないように傷のまわりから外へと消毒していくのが原則です。消毒薬が乾いたら、また同様に消毒します。
新しい傷の手当て
「応急手当て」(→けがの処置)で述べたように、まず出血にはガーゼなどをあてその上から手で圧迫するか、包帯をして止め、医師の治療を受けます。止血と細菌感染を防ぐことが、はじめの大切な手当てです。災害やグラウンドでの運動中、労務作業中などでの傷は、細菌がつきやすいので以下のことをおこないます。
傷の中の小さな異物はできる限り取り除きます。大きな異物や深く刺さっている異物はその物で血が止まっていることがあり、取ると大出血することがあります。取らずさわらず、けがをした部分を動かさないようにして急いで病院を受診します。
不安薬は、最終的に症状を治すことができる
医師は傷の大きさ、深さ、汚さを診たうえでできるだけ縫合(ほうごう)するようにします。医師は止血し異物を取り除き、壊死した組織を切り除き縫合し、一次治癒の治療をします。場合により、二次治癒や三次治癒の治療をおこなうこともあります。また感染を予防するために抗生物質〔化膿(かのう)止め〕の薬の注射または内服をおこなうことがあります。
開放創(縫えない、または縫わずに傷が開いたままの創)は軟膏(なんこう)を塗り、ガーゼで保護します。傷を乾燥させるという考えは最近よくないことがわかってきており、傷はある程度湿らせたほうがよいとされています。すり傷などの開放創に軟膏を塗ることは適しています。市販の軟膏には強い薬が入っていることがあり、かえって傷や肉芽(にくげ)にわるい影響を与えることがありますので注意しましょう。またパウダーのような粉の薬を吹きかけることは傷や肉芽の状態をわかりにくくします。
化膿した傷の手当て
化膿を起こしたとき、表面の化膿でも範囲が広がるばかりではなく、皮膚の中へ深くなっていきます。表面の化膿を安易に考えず、きれいな水や生理食塩水でうみがなくなるまで洗い流し、消毒し、時には軟膏を塗り、抗生物質を服用すれば、よくなっていきます。
しかし、うみが皮膚の下や深いところにたまると、傷はグジュグジュし治りません。その部分の痛みが強く、熱感(その部分の熱い感じ)があり、はれがひどくなります。また傷に近い部分の関節のリンパ節がはれることもあります。指、手、前腕、上腕のけがではわきの下のリンパ節が、足指、足、下腿(かたい)、大腿のけがでは股(こ)関節のリンパ節がはれることがあります。また全身的に熱が出て、痛みと熱のために衰弱します。リンパ節がはれたときには、強力な抗生物質を服用するか点滴をする必要があります。
傷の皮膚が自然に閉じたあとや縫合したあとではうみがわかりにくくなります。傷が治ったあと、痛みやはれ、熱感が続くときは医師を受診します。
私の私のボールが痛むん。
時間がたった傷の手当て
人のからだには自分自身で治す力があります。前述したように、傷はある日数がたつと肉芽(にくげ)ができて傷のすき間を満たし、その上に皮膚が出てきて治ります。このような二次治癒では、順調な治癒経過をとっているときは、肉芽の色が赤くきれいで毎日傷をうめていきます。このような肉芽には傷をきれいにし、ある程度の細菌を殺す作用があり、正しい手当てをしていればよくなります。前述したようなからだの病気や傷自体のわるくなる条件がなければのことです。
肉芽や傷からの滲出(しんしゅつ)液が少ないときは、少し厚めに軟膏を塗って、ある程度の湿潤(しつじゅん)性を保つようガーゼをあてます。こうすると、肉芽の保護となり、ガーゼがくっつきにくくなります。ガーゼを取り替えるとき、乱暴に扱うと痛みがあるばかりではなく、肉芽を傷つけ出血することがあるのでていねいにおこないます。傷から出る滲出液が多いとき、傷をおおうガーゼは多くします。
ガーゼが傷に密着しているときには、ガーゼの上から消毒液を少したらしガーゼを十分に湿らしてから静かにとります。最近は、市販品でも傷にくっつきにくいガーゼやガーゼと傷の間におくメッシュのガーゼもあり、それらを使うのも1つの方法です。
前述のように、市販されている軟膏には強い薬が入っていることがあり、かえって傷や肉芽にわるい影響を与えることがあります。また肉芽にパウダーのような粉の薬を吹きかけることは傷や肉芽の状態をわかりにくくさせます。傷を乾燥させるのは、最近よくないことがわかってきており、傷はある程度、湿らせることがよいとされ、すり傷に軟膏を塗ることは適しています。
傷が深いときは、肉芽が表面のみをおおって、傷の内部に空間ができその部分にうみがたまることがあります。傷が深い場合は医師を受診したほうがよいです。肉芽は傷の底から徐々に盛り上がり傷をうめつくすようになることが理想的です。表面がよくなったからといって、治ったと考えるのはよくない場合もあります。
傷の治りがわるい、治癒までの日数が長くなる、治った傷が醜くなると考えた場合は三次治癒をおこないます。
傷の治りがおそい場合
糖尿病やむくみのある人、からだの調子のわるい人や高齢者は傷の治りは一般的におそいです。手や足の指先の傷は傷としては治りがややおそいです。その他、傷の感染や異物があるとき、壊死(えし)した組織や皮膚が傷に残っているときもおそいです。このようなとき、肉芽(にくげ)の色はきれいな赤色ではなく、黒ずんでいます。傷が治ろうとする勢いが見受けられません。皮膚のがんで起こった傷〔潰瘍(かいよう)になった傷〕では治りにくく、いったん治っても、またできてひどくなることがあります。
原因に対する処置をおこない、場合によっては黒ずんだ肉芽(にくげ)を切りとり、表面をかきだし、傷を新鮮にして新しい肉芽ができるようにし、傷の治りを早くすることもあります
いずれにせよ、傷の治りがおそいと感じた場合は医師に相談します。自ら栄養状態をよくし、また糖尿病の人は血糖をコントロールすることも大切です。
傷あと(瘢痕)とケロイドについて
傷の治ったあとには瘢痕(はんこん)が残ります。ケロイドは瘢痕組織が多くできすぎて、皮膚の上に盛り上がった状態です。瘢痕やケロイドが大きいと美容上、いやなものです。顔や手足で見えるところでは小さくてもいやだと感じる人が多いようです。また場所が関節の近くにあるときには動きがわるくなります。たとえば、やけどのあとの瘢痕でひきつられ、くびの動きがわるくなったり、手の指が伸びなくなったりします。
このような場合は、形成外科医に相談してみます。美容形成外科と違って、健康保険を使った診療ができます。瘢痕やケロイドの部分を切りとり、からだの健康な他の部分から皮膚をとり縫合し移植する植皮という手術をおこない、ひきつれをとったり、皮膚の見ばえをよくします。関節の動きがわるいときは、その後リハビリをおこなって動きをよくすることもあります。
子どもは瘢痕やケロイドのひきつれにより成長とともに骨が曲がってしまうことがあります。子どもは早い時期に手術を受けたほうが骨の変形が少なくてすみ、また精神衛生上もよいと思います。
現在の医学でどこまでできるか、どれくらいきれいになるか、その他いろいろなことを形成外科医または整形外科医と相談して手術をするかどうかを判断することが大切です。要求どおりのことがすべてできるわけではありません。
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